自然にかえる素材、酢酸セルロース樹脂
廃棄物にならず自然にかえる建築、その鍵は素材にありました。

プリント前の酢酸セルロース樹脂。Photo:Yoshiro Masuda
万博終了後もゴミにならず、自然にかえる建築を社内コンペで提案した竹中工務店設計部の山崎さん、大石さん、濱田さん。当初の構想では、建築自体を紙でつくるという大胆なアイデアもありましたが、紙は3Dプリントに不向きでした。そこで、建築として実現可能な素材を検討する中で、濱田さんが生分解性のバイオプラスチックを提案しました。
3Dプリンターで使用可能な生分解性のバイオプラスチックのうち、植物由来で透明性があり、光を通す素材を探し、「PLA」と「酢酸セルロース樹脂」の2つに絞り込まれました。
PLAは強度が高く、3Dプリンターでの使用実績も豊富でしたが、生分解には 工業用コンポストが必要であり、万が一マイクロプラスチックとして海洋に流出した場合には分解されないという課題がありました。一方で、酢酸セルロースは、海でも自然に分解される、生分解性が高い材料でした。3Dプリントで椅子くらいの大きさであれば、つくれるという実績もありました。酢酸セルロース樹脂は、主に紙と同じく植物が原料です。そのため、酢酸セルロース樹脂を使って単一素材で建築の構造体をつくり切ることに決めたそうです。
今回のプロジェクトで使用された酢酸セルロース樹脂は、DAICEL(株式会社ダイセル)の「CAFBLO®」 という素材です。
※CAFBLO®は株式会社ダイセルの商品で、日本バイオプラスチック協会(JBPA)が定める「生分解性プラ」に登録されています。
酢酸セルロース樹脂 CAFBLO®の可能性
DAICELの川上さん、山川さんにCAFBLO®について教えていただきました。CAFBLO®は、植物由来の セルロース(植物繊維)と、天然にも存在する酢酸、生分解する可塑剤を原料に製造されており、環境にも人体にも優しいという特徴を持っています。計画的に管理・栽培された木や綿花などが原料です。
これまでも、使い捨てのプラスチックスプーンやストローなどのカトラリー、歯ブラシや靴紐の先端、メガネのフレームなどにも使われてきた、歴史ある材料ですが、CAFBLO®を大型の建造物に使うのは初めてでした。

CAFBLO®を使ってつくられたスプーンや歯ブラシなど。提供:株式会社ダイセル
「まさか建築に使われるなんて想定していなかったです。これまで、スプーンやメガネなど、手のひらに乗るような用途がほとんどでした。今回つくられた建築は、もちろん持てそうにもないようなすごく大きなものですよね。大型造形にも適応する可能性が見えてきました。新しい用途でも使えるようになったら面白いなと思いました。」
また、酢酸セルロース樹脂で作られたものは一度使って終わりではなく、使わなくなった後は砕くだけでそのまま新しい製品にリサイクルできます。これにより、素材の強度が下がることなく繰り返し資源として利活用できるのだそうです。自然にかえるだけでなく、リサイクルできる循環型素材として、大きな可能性を秘めています。
今後、一般的な建築部材として採用されるには、さらなる実験やテストを重ねていく必要があります。今回のプロジェクトでの大型造形の実現は、酢酸セルロース樹脂で建築をつくる未来への大きな第一歩になるのではないでしょうか。

3Dプリント中に、DAICELのみなさんと現場チーム、プロジェクトメンバーにて撮影。提供:竹中工務店